「正解のない問い」を、対話で深め、新たな視点で世界を観る。――オンラインプログラム「となりの社会」全6回・完走インタビュー

社会課題という巨大なテーマを、「もし、自分のとなりの人が当事者だったら?」と自分事に引き戻す。そんなコンセプトで始まった全6回の対話プログラム「となりの社会」。
「戦争と平和の歴史」「成長疲労社会と愛着」「フェミニズム」「知られざる日本の貧困」……。 重厚なテーマに向き合い続けた参加者の皆さんは、最終回を終えてどんな景色を見ているのでしょうか。3人の参加者に、その心の軌跡を詳しく伺いました。
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CASE 1:「教える立場」を脱ぎ捨て、一人の人間として社会とつながる
(20代・教育関係者)
―― 全6回、かなりヘビーなテーマもありましたが、終えてみての率直な感想は?
「一言で言うと、ひたすら『自己理解』と『自分とのつながり』を深め続けた時間でした。もちろん社会で起きている出来事を知る時間でもあったんですけど、私の中ではそれ以上に、対話を通じて自分を内省するプロセスのほうが圧倒的に強かったですね。
新しい問いが生まれるたびに、『どうしてこの問いが生まれたんだろう?』『私は今、こう思っているんだな』って、自分の内側に潜っていく感覚があって。
特に仕事柄、学校教育に携わっていることもあって、『これって学校現場だとこういうことかな?』とか『今の活動にこう生かせるな』という風に、得た気づきを自分の『今』とつなげる工程をひたすら繰り返していました。もう、つなげないと気が済まない!っていうくらい夢中になって(笑)。
今は自分自身、『これからどう生きていきたいか』『自分の中にどんなニーズがあるのか』を模索している段階なので、この『自己理解×対話』という時間は、まさに求めていたワークショップそのものでした」
―― 教育現場にいらっしゃるからこそ、響いたテーマはありましたか?
「第4回の『愛着』や第6回の『貧困』ですね。特に貧困については、単なる経済的な困窮だけでなく『つながりの貧困』という視点を得られたのが大きかったです。学校でも、生徒と教師という縦のつながりに固執せず、生徒同士や地域など、つながりを豊かにすることこそが、彼らの『安全基地』になるんだと再確認しました」
―― 「自分自身」への気づきはありましたか?
「これまでは『自分は当事者じゃないから、本当のところはわからない』という実体験不足にコンプレックスがありました。でも、歴史や構造を学び、他者の声を聴くことで、ある種の『当事者性』は育てていけるんだと気づけたんです。 『みんな違ってみんないい』はゴールではなく、そこがスタートライン。その先にある『じゃあ、あなたはどう思う?』という問いを、これからは生徒たちとも一緒に考えていきたいです」
CASE 2:「思考停止」という防衛本能を、対話の種に変えていく
(40代・経営者)
―― 社会課題を知るプロセスで、苦しさを感じることはありませんでしたか?
「ありましたね。特に戦争や貧困のリアルな映像を見たあとは、圧倒されてしまって……。あえて見ないようにしていた『思考停止』や『無力感』がブワッと湧き上がってきました。でも、その『嫌だな、怖いな、何もできないな』というドロドロした本音を、そのまま場に出していいんだと思えたのが、このプログラムの凄さだと思います」
―― その「無力感」が、どう変化していったのでしょうか。
「一人で向き合うとただ苦しいだけですが、誰かとその怖さを分かち合うと、不思議と『じゃあ、今ここから何ができる?』という願いに変わっていくんです。 第5回のフェミニズムで聞いた『特権のある人はランクを意識しない』という言葉も刺さりました。自分が無自覚に持っている特権や、相手に押し付けていたロールモデルに気づくこと。その『自覚』こそが、社会を前進させるヒントになるんだと。きれいごとじゃない、生身の対話が社会課題を『となり』に連れてきてくれました」
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―― 印象に残っているワークやシーンを教えてください。
「第1回の『戦争はあなたに関係ないと言えますか?』という問いが、ずっと心の奥底で響いています。数年前の自分なら他人事だと言い切っていたかもしれません。でも、今の情勢や社会背景を学んだあとでは、もう『関係ない』とは言えない自分になっていました。視野が広がるというより、視座そのものがグッと上がったような感覚です」
CASE 3:対立の奥にある「願い」に触れる、想像力のレッスン
(30代・会社員)
―― 第1回から第3回にかけて「戦争と平和」を扱いましたが、いかがでしたか?
「素材が本当に素晴らしかったです。風刺画や当時のエピソードを通じて、当時の人々がいかに『よく分からないまま』空気感に飲まれていったのかを知り、今の時代のムードと重なって恐怖すら感じました。でも、だからこそ『もし自分が当時の当事者だったら?』という問いに、みんなで真剣に向き合えたんだと思います」
―― その時の対話で、驚いたことはありますか?
「みんなの答えが驚くほどバラバラだったことです。『非国民と言われても反対する』という人もいれば、『家族を守るために加担する』という人もいる。一見、正反対の意見ですよね。 でも、なぜそう思うのかを丁寧に聞いていくと、根っこにあるのはみんな同じ『不安』や『恐怖』だったんです。結論は違っても、その奥にある感情でつながれる。意見が違う相手を『敵』にするのではなく、背景にある願いを想像する。そのレッスンのような時間でした」
―― 最後に、この6回を共にした仲間たちへメッセージをお願いします。
「正直、こうしたテーマを日常(例えば保育園のパパ友や職場の同僚)で話すのはまだ難しいかもしれません。政治の話が避けられるように、何かを恐れている空気があります。 でも、この場所で『本当はこういうことが話したかったんだ』と語り合えたことが、何よりの希望でした。社会の一構成員として、自分ができる範囲で思いを馳せ続けていこうと思います」

編集後記:主催者より
今回のインタビューを通じて見えてきたのは、参加者の皆さんが「正解」を手に入れた姿ではなく、むしろ「分からない」というカオスを抱えながら、それでも社会とつながろうとする力強い姿でした。
客観的な「構造の理解」、映像を通じた「当事者への共感」、それらを煮込むような「対話」がある。この3つが合わさったとき、社会課題は初めて、テレビや新聞の向こう側の話ではなく血の通った「となりの物語」へと変わっていくのだと感じました。
答えのない問いへの旅は、まだ始まったばかりです。